櫻井よしこ オフィシャルサイト https://yoshiko-sakurai.jp/

櫻井よしこ オフィシャルサイト

  • 日本語
  • English
  • 小
  • 中
  • 大
  • Facebook
  • Twitter
  • ホーム
  • お知らせ
  • コラム
  • 著作一覧
  • プロフィール
  • お問い合わせ

コラム

  • 「コラム」の一覧を見る
2005.12.01 (木)

「 ロシアにだけは言われたくない 」

『週刊新潮』 '05年12月1日号

日本ルネッサンス 第192回

ロシア外務省のM・カムイニン報道官がプーチン大統領訪日直前の11月18日、日本を牽制して発言した。

「現在に至るまで、日本の歴史教科書では、朝鮮の占領や、中国での日本軍国主義者の残虐行為は罪とはされていない」「日本の近隣諸国は、日本指導部が謝罪することが、関係発展の前提条件とみなしている」などである(11月20日『読売新聞』)。

報道官の発言は間違っている。日本の歴史教科書では、同報道官の指摘とは反対に、日本ひとりが一方的に悪いかのように教えてきた。戦時も平時も国際関係には相手国があり、いかなる関係も相互的である。その相互性を見つめてもっと日本の立場や主張をも教えるべきだとようやく今、問題提起されているのだ。

また、「日本指導部の謝罪」は、これまで繰りかえされてきた。謝罪で関係が改善されるのなら、疾うの昔に改善されているはずだ。そうでないのは、他の理由があるからだ。

このような的外れの発言をプーチン大統領訪日直前にするのは、それなりの理由があるのだろう。ロシア側がプーチン訪日で実現したいのは、領土問題に触れることなく日本から多くの援助と協力を引き出すことだ。そのためにロシア側は事前に明確なシグナルを幾つも日本に送ってきた。たとえば「北方4島はロシアの主権下に置かれている。この点について議論する気は全くない」という大統領発言であり、「4島は日本が侵略戦争に敗れた結果、取り上げられたものだ」などの発言だ。今回の外務報道官の発言も同類である。

それにしても、日本にとってロシアとの関係は出会いの時から領土問題が絡んでいた特異なものだ。幕末、日本に押し寄せた列強のなかでも、唯一、ロシア人は当初から日本の領土の奪取を目論んだ民族であることに注目せざるを得ない。

詭弁と軍事力で領土拡張

たとえば樺太は江戸時代から日本国が領土として監理してきた。ロシアがこの地に足を踏み入れたのは1850年代である。皇帝ニコライ1世は1847年にムラビヨフを東シベリア総督に任命、ムラビヨフは翌年イルクーツクに着任、部下に樺太と黒龍江の河口への探検を命じた。彼が樺太を植民地として開拓せよとの具体的な指示を出したのは1853年、ペリーの黒船を迎えて日本が騒然としていたときだ。幾世紀も監理してきた樺太を、日本は1875年の樺太千島交換条約でいとも簡単に諦めてしまう。日本外交の稚拙さ、領土への権益意識の薄さなどについて、日本側の反省は必要だが、入植わずか20年余りで他国の領土を奪うロシアの厚顔無恥にも驚くものだ。

ロシア人が国際法を無視して領土拡大の野望を実現しようとした事例のなかに対馬占領の動きもあった。

これはソ連問題の専門家の新井弘一氏が書いていることだが、幕末の1861年2月、ロシア軍艦ポサードニック号が修理が必要だと偽って対馬の尾崎浦に入港した(『戦後強制抑留史』第1巻)。

だが、彼らは船の修理などには取りかかりもせず、周辺の測量を開始し、上陸して樹木を伐採、兵舎を建て始めた。そのうえで対馬藩主に面会を求め「英国による占領を阻止し、対馬を日本のために防御する」と主張して土地の租借を要求したのだ。驚いた日本は、ロシアが「対馬の占領を目論む国」と名指しした英国に救いを求めロシア艦を排斥した。

三国干渉も脳裡に浮かぶ。日清戦争で勝利した日本は清国と下関条約を結び、朝鮮の独立、遼東半島、台湾、澎湖列島の割譲などを得た。しかしロシアは、下関条約締結の6日後、独仏両国に働きかけ、遼東半島の占領は清国の首都を危うくし、朝鮮の独立を有名無実にすると主張して遼東半島の放棄を日本に迫った。

周知のように、日本はその要求を受け容れたが、なんと3年後の1898年、ロシアは日本に放棄させた遼東半島の租借条約を清国と結び、自らの支配下に置いたのだ。言行不一致、詭弁、軍事力によって、領土拡張を正当化するのがロシアである。

第二次大戦で日本降伏後に北方4島を不法に占領し今日に至っていることも、そもそもソ連の対日参戦が、日ソ中立条約を一方的に破った国際法違反の蛮行であることも、今更、指摘するまでもない。

ソ連兵暴虐の中の悲劇

日露関係のなかで、どうしても忘れてはならないことは非常に多い。先週の小欄で言及したシベリア抑留者の実態もそのひとつだ。シベリアに連行はされなかったけれど旧満州に居留していた一般邦人の悲劇もまた、忘れてはならない事柄である。昭和20年当時、旧満州居住の一般邦人は155万人といわれる。そのなかで開拓団として入植したのは27万人、内、壮年男子5万人は軍に召集されていた(前掲書)。

1945年8月9日、ソ連は突如、陸、海、空三軍による攻撃で日本人に襲いかかった。当初、開拓団の人々は中立条約を結んでいるソ連の攻撃を予想だにせず、米軍の攻撃だと勘違いした人もいたほどだ。この混乱のなかで数々の悲劇が生れた。

まず残留孤児である。南下するソ連軍に追われた開拓団の女性たちは小さな子供連れでは逃げきれず、少なからぬ母親たちが、子供たちの命を救うために、現地の人々に大切なわが子を預けてきた。そして多くの残留孤児の悲劇が生れたのだ。

首都新京では、他の地域同様、侵攻してきたソ連兵が暴虐の限りを尽した。日本人民家に押し入り、金品を強奪、女性たちを強姦した。逃げきれないと観念した日本人女性には自決する人々が相次いだ。

日本人はひたすら逃げるしかなかったが、ロシア人はその一般邦人にも攻撃の手をゆるめなかった。たとえば樺太における日ソ間の国境を守るために日本政府は樺太食糧営団を置き、島民と季節労働者15万人の合わせて50万人分の食糧を現地に備蓄していた。国境を破ってなだれ込んだソ連兵はこの備蓄食糧をまず奪った。すさみきったソ連兵は一般邦人への暴虐をやめず、日本側は老人、子供、女性たちを優先して北海道に疎開させることにした。移送が始まったが、そのなかの3隻の船が国籍不明の潜水艦の攻撃を受けて沈没し、1,700人が死亡したのだ。

撃沈されながらも一命をとりとめた船長は、攻撃は間違いなくソ連の潜水艦によるものとの証言を残した。だが、ソ連側は証拠がないと言い張り、当時は攻撃船は「国籍不明」とされた。しかし、ソ連崩壊後のロシアにおける文書等の公開により、この潜水艦群がソ連の艦船であったことが、今は明確になっている。

こうしてみると、ソ連、ロシアの行為はどう考えても許せない。北方4島のソ連領有が日本の侵略戦争の当然の結果だとする主張や第二次大戦への日本の指導部の謝罪が必要だなどとは、ロシアにだけは言われたくないのだ。

Tweet Check
トラックバックURL:

トラックバック: 16件

  1. 男系が国民統合の権威ー第2回日本会議国会議員懇談会勉強会

    日本会議メールマガより転送しますのでご参照いただければ幸いです。

    去る29日に日本会議国会議員懇談会(会長 平沼赳夫前経済産業大臣 加盟議員241名…

    トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2005年12月02日  14:37

  2. 男系が国民統合の権威ー第2回日本会議国会議員懇談会勉強会

    日本会議メールマガより転送しますのでご参照いただければ幸いです。

    去る29日に日本会議国会議員懇談会(会長 平沼赳夫前経済産業大臣 加盟議員241名…

    トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2005年12月02日  14:37

  3. 太宰府市男女参画条例–人権救済に係る機関

    予告していましたが、遅くなりました。

    2ちゃんではよアップせいと叩かれてますが、議案は内部事項なんでふつうは出さないのですよ。

    デマだのなんだ…

    トラックバック by 福岡県人権救済条例に反対するBLOG — 2005年12月02日  20:35

  4. 核の使用、不使用

    核兵器という究極の破壊兵器が世界中に拡散している。
    また、所有国の中には、自分たちの政権維持のためになら、自国民や他国の被害など関係ない。という、自己中心…

    トラックバック by 手前ら、日本人をなめんじゃあねぇ — 2005年12月02日  21:24

  5. 中国よ、日本に謝罪と賠償してみないか?

     中国の東北部で起こった化学工場爆発によって、大量のベンゼンなどがが松花江(アムール川)に流れ込んだ問題で、そろそろ有毒物質が到達するロシア領内では、水の…

    トラックバック by やじざむらい的日々雑感 — 2005年12月03日  09:46

  6. 公明党に乗っ取られかねない「国家基本問題」ー皇室、憲法、教育、防衛問題

    公明党が最近、防衛庁の「省」格上げや教育基本法改正など、これまで慎重だった憲法、安全保障関係の政策課題に柔軟な姿勢を見せている。2006年度予算編成を控え…

    トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2005年12月03日  13:51

  7. 公明党に乗っ取られかねない「国家基本問題」ー皇室、憲法、教育、防衛問題

    公明党が最近、防衛庁の「省」格上げや教育基本法改正など、これまで慎重だった憲法、安全保障関係の政策課題に柔軟な姿勢を見せている。2006年度予算編成を控え…

    トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2005年12月03日  13:51

  8. ★ 小林英夫 『満鉄調査部―「元祖シンクタンク」の誕生と崩壊…

    日本近代史に屹立する、満鉄と「元祖シンクタンク」満鉄調査部。本日は、その満鉄調査部の興亡を追跡した、すばらしい本をご紹介いたします。「満州」を舞台にして時…

    トラックバック by 書評日記  パペッティア通信 — 2005年12月03日  22:15

  9. 「いっしょに震えあう」

    身(み)はたとひ 武蔵(むさし)の野辺(のべ)に 朽(く)ちぬとも 留(とど)め置(お)かまし大和魂(やまとだましい) 幕末、幕府から死罪を通告…

    トラックバック by Merge Voices — 2005年12月04日  00:13

  10. ロシアのプーチン大統領来日 を考える 2

    原油価格の高騰によりロシア経済も好調を維持していましたが、曲がり角に
    直面しつつあります。
    更に、ロシア外交の失敗が連続しているように思えます。
    …

    トラックバック by 諸葛川 — 2005年12月04日  11:49

  11. 韓国 テロリストの遺骨探しを日本に協力を求める

    [読売新聞] 安重根の遺骨、南北の捜索が難航…日本に協力要請へ
     【ソウル=福島恭二】伊藤博文を暗殺し、処刑された朝鮮独立運動家、安重根(アン・ジュング…

    トラックバック by マスコミが伝えない 韓国 — 2005年12月04日  12:38

  12. 皇室典範改正準備室、内閣官房に設置

    皇室典範改正準備室、内閣官房に設置(朝日新聞 12/1)

    政府は1日、内閣官房に「皇室典範改正準備室」を設置した。小泉首相の私的諮問機関「皇室典範に…

    トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2005年12月04日  13:22

  13. 皇室典範改正準備室、内閣官房に設置

    皇室典範改正準備室、内閣官房に設置(朝日新聞 12/1)

    政府は1日、内閣官房に「皇室典範改正準備室」を設置した。小泉首相の私的諮問機関「皇室典範に…

    トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2005年12月04日  13:22

  14. 反省を促す工夫

    第2次世界大戦で本当に裁かれるべき国がロシアであることは、前にも書いた。その蛮行はけっして許されるものではないし、私自身は、プーチン大統領やロシアの高官の…

    トラックバック by 三笠の山に出でし月かも — 2005年12月04日  13:23

  15. 北方領土が間もなく返還!! 果たして本当!?

    『北方領土の返還は拒否するが、経済交流は発展させたい』

    極めて身勝手な言い分に聞こえますが、

    次の記事内容は本当でしょうか?

    http:…

    トラックバック by ☆独断雑記 XYZ — 2005年12月05日  11:11

  16. Xenical.

    Xenical.

    トラックバック by Xenical. — 2007年03月18日  01:15

櫻井よしこ氏がネット新番組の発表をいたします。
「 ロシアにだけは言われたくない 」

新着記事

  • 2025年5月8日
    「 自民党再生へ、萩生田氏の決意 」
  • 2025年4月24日
    「 中国の覇権に連合体制で対応せよ 」
  • 2025年4月17日
    「 中国に屈服する石破・岩屋外交 」
  • 2025年4月10日
    「 米国の後退、戦略3文書を見直せ 」
  • 2025年4月3日
    「 習氏の檄、台湾侵攻の「戦備強化」 」

記事フィルタ

カテゴリ
月別アーカイブ

  •  ・番組出演のお知らせ(2025年3月20日)
  •  ・番組出演のお知らせ(2025年1月8日)
  •  ・番組出演のお知らせ(2024年12月24日)
  •  ・番組出演のお知らせ(2024年10月1日)
  •  ・番組出演のお知らせ(2024年9月9日)

新刊のご案内

暴虐国家
暴虐国家
異形の敵 中国
異形の敵 中国

  • 国家基本問題研究所 - jinf
  • 櫻井よしこ 公式Facebook
  • 櫻井よしこ 公式Twitter
このページのトップへ
creative comons

このサイトに掲載されているコンテンツは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。

Copyright © 2025 Ascent Co.,Ltd. All Rights Reserved.